森をよけた住まい(飯島さんの家)

house for iijima


東京都港区 / 2階建( 木造 )  / 敷地面積:34u / 建築面積:19u / 延べ床面積:36u 

構成: 住宅 & Airbnb/ 2014住宅建築賞

2013








大きな木々の隙間にできたような場所








「森を避けた住まい」



「私たちは一目でこの場所を気に入ったんです。

家の敷地と思うと小さいけど、木々をよけたこの道がアプローチ。

階段のところが玄関で、家が見えたらただいまーと思えるような。

街にいろーんなものを借りて、借り暮らしのような家になったら幸せだなーって思うんです。

もちろん、借りっぱなしじゃなくて、家の存在が、街の人たちにも喜びを与えることができたら最高だなぁ……って!」

 

周辺には巨木があちらこちらに生えていて、あたかも「先に生えていた木の方がエライのだ!」というかのように、

木々をよけた街が形成されていました。

反面、街とは真逆の極小の敷地。あまりに小さいので内側について考えるのをやめ、

この街がはるか昔、森だった頃を想像してみました。




 

目には見えない巨木をよけるよう、

道に面した角の面は地面を街に差し出した大きな曲面の壁。

建てられる家の大きさは、その分さらに小さくなりましたが、

大きな木々のすき間の居場所のような住まいが生まれました。



その瞬間、境界線が消えたのです。





家に向かう小道から見る。





階段の隙間から、小さな小さな飯島さんの家が見えます。

でも、小さいって言っても、人間よりははるかに大きいですけどね。






曲面の壁の外側は、たくさんの植物に包まれています。

アーチの開口が、家の入り口です。





曲面の壁には、時間によって、まあるい影が落ちてきます。

ほんの少しの軒が作る影が、家に奥行きを作り出します。




家の周りには、こんな風に、「木の方がエラいのだ」と言わんばかりの

ユーモラスな風景があります。そんな仲間入りをできたらと思いました。






入り口。
















1階は、何と言いましょうか、、、。

玄関兼、台所兼、食堂兼、、、、。

ともかく一つしか場所がないのですから。



いつも森を通した木漏れ日が、家の中に入ってきます。

曲面の壁に挟まれた家の中は、大きな木々の隙間にいるようです。





飲み会準備。




2階。

ええと、部屋というよりも、ベッドと、バスタブと、洗濯機と、机があります、と説明した方が、

伝わりやすような大きさです。(笑)

でも、ほーんと森の中にいるような、不思議な包まれ感のある2階です。














2階も、曲面の壁に挟まれた居場所です。















バスタブは、縦にしか置けませんでしたが、

これがまた何とも、居心地のいい挟まれ感の入り心地。

外でお風呂に入っているような開放感があります。

すのこ状の床部分は、1階とつながっています。これも少しでも狭さを感じさせないような

苦肉の策ですが、それ以上に素敵な出来事を、家に与えてくれます。



1屋上にも、浴室から出入りすることができます。

とても贅沢な湯上りテラスです。

さて実は、数年前から、飯島さんはこの家を週末だけ、民泊(Airbnb)として貸す事を始められました。


初めて聞いた時、「えっ?家を貸しちゃうんですか、、、、??大丈夫ですか??」と正直驚きました。

でも、週末だけ貸す事で出会う、国内外のゲストとの素敵な交流のエピソードを聞くたびに、

家族で独り占めする事だけではない、家の新しいあり方を教えていただきました。



そんなある時、飯島さんちに伺った時の事です。

小さな黒板に、毎回ゲストが、イラストやメッセージを残してくれるらしいのですが、

その時描かれていたのは、とても鮮やかな羽を広げたこんな鳥の絵でした。


家が、木だとするなら、ゲストは、渡り鳥のようなものなのかも。

そして、たった一軒の小さな小さな家が、世界中の人々に愛される事も

できるなんて、何と素晴らしいんだろう!と思ったのです。



そして、スクラップ&ビルドが当たり前の日本の住宅に対する考え方を、変えてくれる

方法なのかもしれないなーと思いました。





これが、「月のとびら」につながるBirdプロジェクトが、始まった瞬間だったのです。


住むか、住まないか、だけではない他者を受け入れる事も含めた長い家との付き合い方。

いつまでも、「家を建ててよかったなー。」と思える方法。

建築が時を超えていく方法。



そんな訳で、飯島さんには、いまだに勉強させていただいています。













   

家とこの世界のあいだで。







構造:筬島規行/筑島建築構造設計事務所   施工:大原工務所


協力 アトリエベガ(特殊金物)/Boo-Foo-Woo

photo:西久保毅人