ちょいと登ってみたくなる屋根高さ。
屋根が低いというだけで、恐怖心がなくなるから不思議。
※
九州建築賞2019.奨励作品に選ばれました。
審査書類に書いたタイトルと文章です。
『 下屋根のスタジアム 』
下屋根のスタジアムは、佐賀県佐北部の賀市大和町に計画した住宅である。
平面形状は、東西に長いメインボリュームに対してサブボリュームが取り付く十字形をしており、
その事で、パブリックなスペースと生活を支えるブライベートスペースの領域を作り出している。
動線は、十字プランの中央に位置するパントリーを中心として回遊性をもたせているため、
日常で起こる様々なシーンに柔軟に対応できるようにするとともに、
シンプルな平屋にありがちな動線の単調さを避けるようにしている。
さて、計画地は、240坪と佐賀県の住宅地としても広く、この土地の購入理由を建主に聞いたところ、
子供達のサッカーの練習場にしたり、人を招いたり、将来道路側に店を構えたり、
とそんな未来への余白をもったストーリーを伺った。
そこで、南側に設けた深い下屋根の一部を、地面に限りなく近く延長させる事で、
平屋よりもさらに低いスケールの佇まいで空き地と街に構える事にした。
その下は自転車置き場とし、簡単な台を利用すれば、
子供でも容易に屋根の上に登れるようにした。
家の内部からも下屋根に出られるため、家の内部、
下屋根の上、地面までを巻き込んだ、立体的な大回遊動線が誕生した。
緩い勾配の屋根の上は、子供達が走り回り、寝っころがり、お昼を食べ、とまるで公園の丘の上のようだ。
全体からすれば、ほんの少しだけ下屋根を地面近くまで差し出した事で、
屋根の上にいる恐怖心を一掃し、むしろ地面の続きの場所にいるかのような安心感を生み出している。
庭でサッカーのミニゲームでもする時には、屋根の上がスタジアムの観客席になる事だろう。
住宅の外皮である事を超えて、地面を拡張するかのような下屋根の使われ方と、
親しみやすい佇まいのこの住宅を、「下屋根のスタジアム」と名付けた。
玄関は、ハーフタイムのロッカールームみたいに。
『誰か来たばい。』
平面計画は、みんなの場所と、プライベートスペースををくるくると。
「そうそう、そこが一番よかとこ。」
構造:筬島建築構造事務所 施工:江口建設
photo:西久保毅人
※は大倉英揮